2003年度 全国アンケート結果の公開

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スライド1 冠動脈外科 2003

スライド1 冠動脈外科 2003

恒例となった冠動脈外科手術に関するアンケート調査である。今回の調査対象は2003年1月1日〜12月31日までの1年間に行われた冠動脈外科手術の調査である。今回のアンケートでは昨年1例以上冠動脈バイパス術を行った全国の施設の内302施設から回答をお寄せ頂いた。これは昨年の262よりも40施設上回るかずであり、多くの施設、先生方にご協力を頂き、この場にて厚く御礼申し上げる。

スライド2 手術の緊急度別成績

スライド2 手術の緊急度別成績

2003年に行われた冠動脈バイパス術総数は15,859例で、うち単独冠動脈バイパス術が14,947例、心筋梗塞合併症あるいは他の手術と同時に行われた手術が912例であった。

スライドは横軸に初回手術,再手術別に待機、緊急の手術の種類とその比率、縦軸はそれぞれの死亡率を示している。

これによると初回の待機手術は総数12,505例で手術死亡1,20%であるが、初回緊急手術は1,984例で7.36%、再手術待機手術は393例で3.82%、再手術での緊急手術は65例で13.85%であった。傾向は例年と変わりない。

スライド3 バイパス本数の推移

スライド3 バイパス本数の推移

スライドの緑は1枝、青は2枝、黄色は3枝、赤は4枝以上のバイパス手術を示す。左から80年以前、その後5年ずつのデータに加えて右側にこの3年間のデータを示した。昨年行われた単独冠動脈バイパス術14,947例は、その13.0%が1枝で、以下、2枝が28.0%、3枝が32.7%、4枝以上が26.3%であり、4枝以上を4枝として計算した平均バイパス本数は2.72で、前回の2.68を上回った。

スライド4 障害枝数別の手術成績(初回待機手術)

スライド4 障害枝数別の手術成績(初回待機手術)

冠動脈の障害枝数別の手術成績を示す。まず初回待機手術の成績を示す。スライドは横軸に何枝病変かを示し、縦軸に死亡率を示している。昨年の初回待機手術は12,505例で、全単独冠動脈バイパス術の83.7%を占めた。左端からLMT病変を持たない1枝病変、順に2枝、3枝と続き、一番右端がLMT+3枝病変である。LMT病変を合併しない3枝病変が全体の43.8%で最多であり、LMT病変なしの症例は全体の73.5%を占めた。この傾向に変化はない。手術成績はLMT病変なしの手術死亡率は1.08%で前回の0.92%から一歩後退した。またLMT病変ありでは1.54%でやはり前回の1.32%から後退した。初回の待機手術全体では最も優れた成績であった昨年の1.02%から1.20%に後退した。

スライド5 障害枝数別の手術成績(初回緊急手術)

スライド5 障害枝数別の手術成績(初回緊急手術)

続いて初回緊急手術の成績を示す。死亡率のスケールが異なる点にご注意頂きたい。昨年の初回緊急手術は1,984例で全体の死亡率は7.36%であった。これは前回の7.63%と比較して僅かに向上したことになる。障害枝数別には、やはりLMT病変を合併しない3枝病変が最多で全体の30.3%であった。しかしLMT症例が48.7%で、全体の半数近くを占めた。先程の待機手術ではLMTありの症例は1/4であり、大きく異なる点である。これも例年と変わらず緊急手術に占めるLMT病変の多さを示すものと考えられる。手術死亡率はLMTなしで7.28%、LMT病変ありでは7.45%であった。

スライド6 年齢分布(全症例)

スライド6 年齢分布(全症例)

症例の年齢別成績の調査を始めたのが1997年であり2000までの4年間とこの3年間を比較して示した。このスライドは全症例に対する分析であるが、10歳単位で年齢分布をみると以前は60代にピークがみられたものが、70代に移行し高年齢化が進んでいる。70歳以上の手術は全体の45.7%で昨年の44.4%から更に増加、80歳以上でも7.2%で昨年の6.9%からやはり増加した。

スライド7 年齢分布(全症例:男女別)

スライド7 年齢分布(全症例:男女別)

これを男女別に示す。全体の75.6%が男性であり、男女比はちょうど3:1であった。男性のピークが60歳代であったものが60代と70代の差がほとんど認められなくなった。女性のピークは70歳代であり、年齢分布に変化はない。全症例での手術成績は男性の手術死亡が1.72%であるのに対して、女性は2.79%と差が認められた。

スライド8 年齢分布(初回待機手術:男女別)

スライド8 年齢分布(初回待機手術:男女別)

次に初回待機手術について同様の分析をすると、男女比、年齢分布に大きな変化はなく。男性の手術死亡が0.88%であるのに対して、女性は1.58%と、やはり差が認められた。

スライド9 年齢別手術成績

スライド9 年齢別手術成績

初回待機手術の10歳毎の手術死亡率を示す。もっとも背面の灰色が97年から2000年までの成績で、次の青色が2001年、赤色が2002年、前面の黄色が今回の成績である。昨年まで年齢とともに死亡率が上昇する、いわゆる右上がりのグラフであったものに変化が見られた。確かに70歳以上では70歳未満と比較して死亡率が上昇するが、80歳以上の死亡率は昨年の1.99%から1.05%へ低下している。90年代後半と比較して成績の向上には目を見張るものがある。

スライド10 年齢別手術成績

スライド10 年齢別手術成績

同じことを全症例で比較した。若年者の母集団は小さいが、緊急手術が加わることにより若年の死亡率が高値を示した。ここでも80歳以上の成績の向上が著しい。

スライド11 手術死亡率の推移

スライド11 手術死亡率の推移

1996年来の手術死亡率の推移を示す。過去最も優れた成績を残した前回の成績には及ばないものの、単独冠動脈バイパス術の死亡率は2.14%、初回待機手術の死亡率は1.20%と優れた成績を残した。

スライド12 Off-pump CABG

スライド12 Off-pump CABG

ここからはOff-pump CABGの推移と成績についてお話しする。前回までの調査により,我が国のOff-pump CABGが増加の一途を辿っていることは周知の事実であり、今回の調査ではさらに初回待機手術における詳細な分析を行った。

スライドは96年以降のoff-pumpとon-pumpの割合を示したものである。向かって左のgoldがoff-pumpで右のsilverがon-pumpである。 Off-pump CABGは96年以来、加速度的に増加しており、今回は7,853例に行われた。冠動脈バイパス術14,947例のうち実に52.5%がoff-pumpで行われたことになる。グラフには示していないが、アプローチ別には、胸骨正中切開が96.9%を占めた。左開胸は205例で2.6%、うちMIDCABは173例であった。

スライド13 Off-pump CABGの施設数

スライド13 Off-pump CABGの施設数

このようにoff-pump CABGは広く普及し、302施設中283施設で行われた。スライドは1施設あたり何例のoff-pumpが行われているかをみたものである。昨年off-pump CABGが行われなかった施設は緑色の19施設で、順に1例以上20例以下の施設が青の159施設、21例以上40例以下の施設が紫の66施設となっている。20例以下の施設が全体の過半数、40例以下で3/4を占める。

スライド14 障害枝数に対するOff-pump CABGの割合

スライド14 障害枝数に対するOff-pump CABGの割合

初回待機手術における障害枝数に対するoff-pump、on-pumpの割合を示す。これは今回初めての試みである。初回待機手術におけるoff-pump CABGは7,030例で全体12,505例の56.2%を占める。特に1枝病変では77.1%がoff-pumpで行われている。LMT病変の有無に関わらず3枝病変の症例はoff-pump、on-pumpがほぼ同数であり、特徴的であった。これ以外はoff-pumpの症例が過半数を占めた。

スライド15 バイパス本数の比較

スライド15 バイパス本数の比較

初回待機手術におけるバイパス本数を比較した.Off-pumpでは2枝バイパスが最も多く次いで3枝、4枝以上と続く。On-pumpでは3枝、4枝以上、2枝の順であり、4枝以上を4枝として計算した平均バイパス本数は、off-pumpで2.55、on-pumpで3.02と差がみられた。

スライド16 障害枝数に対する成績の比較

スライド16 障害枝数に対する成績の比較

初回待機手術における障害枝数に対するoff-pump、on-pump別の成績を示す。初回待機手術におけるoff-pump CABGの死亡率は0.81%で、特に1枝病変では0.11%と極めて安全に行われていることが分かる。On-pump症例は死亡率が1.70%であったが、LMT病変を有する症例では3枝病変を除いてのon-pumpが優秀であった。

スライド17 手術成績を左右する因子

スライド17 手術成績を左右する因子

初回待機手術における手術成績を左右する因子を検討した。統計学的検定はフィッシャーの直接確率計算法により行った。以前と比較してLMT病変の有無による手術死亡率の差は小さくなった。性別、70歳を境とした年齢、off pumpかon pumpかにより手術死亡率に統計学的に有意差が認められた。

スライド18 左室瘤に対する手術

スライド18 左室瘤に対する手術

心筋梗塞合併症の手術成績を示す。円グラフが昨年の成績で、折れ線が年代別の死亡率の推移を示している。

左室瘤に対する手術は昨年248例に行われ手術死亡は3.63%で過去の成績と比較して最も優れていた。

スライド19 心室中隔穿孔に対する手術

スライド19 心室中隔穿孔に対する手術

心室中隔穿孔に対する手術は163例に行われ手術死亡は21.47%であった.昨年の17.2%からやや後退した。

スライド20 左室乳頭筋断裂に対する手術

スライド20 左室乳頭筋断裂に対する手術

左室乳頭筋断裂に対する手術は46例に行われ、他の合併症手術と比較して最も数は少ない。手術死亡率は26.09%とやや向上した。

スライド21 心破裂に対する手術

スライド21 心破裂に対する手術

心破裂に対する手術は108例であった。死亡率は32.41%と前回の28.4%からやや後退した。

スライド22 結語1

スライド22 結語1

2002年に行われた冠動脈バイパス術総数は14,947例で、うち単独冠動脈バイパス術が12,505例であった。

Off-pump CABGは7,853例に行われた。全体の52.5%がoff-pumpで行われたことになる。

スライド23 結語2

スライド23 結語2

2003年の単独冠動脈バイパス術のうち初回待機手術の手術死亡率は1.20%と前回の1.02%からやや後退したもののoff-pumpの成績は0.57%であり、きわめて優秀であった。


以上で報告を終える。

アンケートの内容が多岐に渡り、初期の頃にくらべると、かなり細かになっているにも関わらず、ご協力いただいた施設数が前回よりも40も多い262施設になったことを考えると、本日の報告が多くの施設、先生方のご協力によりなし得たものと重ねて御礼申し上げる。今回は初めてインターネットによるアンケートの配布、回収を行ったが、多くの施設にご協力いただき感謝している。次回からは毎年項目を変えて、1つのトピックについての調査も考えている。まずは血液透析を行っている症例について現況を把握してみたい。今後もさらなるご協力をお願いしたい。