理事長挨拶

 この度、歴史と伝統ある、一般社団法人日本冠動脈外科学会の理事長を拝命いたしました。どうぞよろしくお願いいたします。

 日本冠動脈外科学会は、1970年に発足した日本冠動脈外科研究会を母体として、1996年7月に創設されました。名誉理事長の瀨在幸安先生が、第1回日本冠動脈外科学会学術大会を東京で開催されました。それ以後COVID-19感染拡大の2020年を除き、毎年7月に各地で開催され、今年2023年7月に高木 靖会長が第27回学術大会を名古屋で開催しました。
 1970年に瀨在幸安名誉理事長による、日本初の冠動脈バイパス術が施行され、50年以上が過ぎようとしています。大伏在静脈のみでのバイパス術から始まり、1980年代には内胸動脈が、その長期成績から脚光を浴び、内胸動脈+大伏在静脈の時代に入りました。21世紀に入ると両側内胸動脈が注目され、さらに橈骨動脈、胃大網動脈が加わる、全動脈による冠動脈バイパス術が脚光を浴びました。さらに本邦ではOPCAB(Off Pump Coronary Artery Bypass surgery)人工心肺を用いない、心拍動下冠動脈バイパス術が若手心臓外科医によって普及し、2000年のその比率は50%を超えました。

 両側内胸動脈の比率が40%、OPCAB率が50%を超えるという独自の進歩を遂げてきた本邦の冠動脈外科は、世界から注目を集め、欧米、アジアから高く評価されています。 2015年にAATS(米国胸部外科学会)主催のInternational Coronary Congress (ICC)がニューヨークで開催され、その後互いの交流が発展し、2022年の高梨秀一郎会長の第25回学術大会では、ICCと日本冠疾患学会の3学会がCoronary Weekとして合同開催されました。多くの外科医と循環器内科医が集まり、冠動脈外科学会の大きな発展へのマイルストーンとなりました。
 また、韓国冠動脈外科学会(Korean Coronary Artery Sciety: KCAS)とも、毎年、講師の交換派遣を行い、お互いの学会においてJoint Meetingを開催してきました。また、バンコクの大学とは、荒井名誉理事長と私が、COVID-19が感染拡大する前まで毎年年末にバンコクを訪れ、OPCABセミナーを開催し、バンコクのOPCAB普及に貢献して参りました。フィリピンハートセンターとは、2020年1月にマニラでJoint Sessionを開催しました。
2024年大会長の新浪博士理事も、タイやミャンマーでOPCABの普及に貢献してきました。今後も他のアジアの国々に学会の国際貢献の活動の輪を広げていきたいと考えています。

 また、昨今では低侵襲心臓手術(MICS)が注目され、冠動脈外科においてもMICS-CABGが今後普及していくものと考えられます。アジアの国々からも本邦のMICS-CABGに関して熱い注目が集まっており、学会としてもこのチャンスを生かして、MICS-CABGの神髄を追求し、その効果と安全性を科学的に検証していく責任があると感じています。

 経皮的冠動脈形成術(PCI)との競合の時代から、協働の時代へ。冠血行再建のガイドラインが欧米と本邦から発信され、冠動脈治療はMultidiciplinary decision makingが求められています。これまでの狭いところがあれば広げる(PCI)、つなぐ(CABG)時代から、虚血を正確に診断し、治療する。必要なことだけを行う方向へ向かっています。その診断にも様々なモダリティーが登場してきています。日本冠動脈外科学会は、外科医だけが集まっての狭い視野での活動に陥ることなく、冠動脈疾患全体を見渡せる、海外展開の意味も含めて、広い視野に立っての活動ができるようにならなくてはなりません。また若手の医師が学術活動を積極的に担って、貢献していけるシルテム作りも必須の課題と感じています。
 岡田副理事長と協力しながら、理事、評議員、会員の皆様の力をお借りして、日本冠動脈外科学会が益々発展するように、全力で頑張りたいと思います。皆様のご協力、ご支援をどうぞよろしくお願いいたします。


2023年夏

一般社団法人日本冠動脈外科学会 理事長
金沢大学 心臓血管外科学 教授
竹村博文